Whiskey In The Jar

先日行った渋谷のブリティッシュパブがいつもよりとても賑わっていて、店長も派手な緑色のジャケットを着ていて、不思議に思っていたら、「そうか、今日はセント・パトリックスデイだ。」と知って納得。
前日にアイリッシュ・コーヒーを作りながらそんな話しもしていたのに。

お隣のスコッチウイスキーに比べると、今ひとつ地味な印象のアイリッシュウイスキーですが私はとても好きですし、近年アイルランド国内での蒸溜所の数も増え続け、約5年前までは3ヶ所しかなかった蒸溜所は30を超えると言われといます。
歴史や製法の事はここでは割愛し、銘酒『レッドブレスト』について書きたいと思います。

『レッドブレスト12年』
コーク州にあるミドルトン蒸溜所で作られている「シングル・ポット・スティル・アイリッシュ・ウイスキー」
誕生は1939年、ジンで有名なワイン商ギルビー社が、ミドルトン蒸溜所で作られていた「ジェムソン」を独自に熟成、瓶詰めして「レッドブレスト」の名前で売っていたそうです。
ちなみに「レッドブレスト」とは胸の所が赤いコマドリのことで、イギリスでは春を告げる鳥と言われているそうです。
この様な業者は他にもいくつかあったそうで、1968年までに段階的に廃止されましたが、「レッドブレスト」の人気は高く、1985年まで販売の許可を与えられていたそうです。
その後、ミドルトン蒸溜所を所有する会社が販売の権利を買い取り現在に至ります。
「シングル・ポット・スティル」という名前は現在、世界で唯一ミドルトンで行われているウイスキーの製造方法から来ています。
冒頭、割愛すると言ったはずの製造についてですが、ほんの少し。
通常「モルトウイスキー」は大麦麦芽から麦汁を得、発酵、蒸留(通常2回)そして熟成されて作られます。
「シングル・ポット・スティル」はコーク州産の大麦麦芽と未発芽の大麦から麦汁を得、発酵、蒸留(3回)そして熟成されて作られます。
熟成には伝統的なシェリー樽とバーボン樽を使用し絶妙のバランスでブレンドされます。

香りはとても柔らかく、ドライオレンジピール、ビスケット(Walkers)、オーク樽、遠くに熟したバナナ、洋ナシやドライ白レーズン。
口に含むと滑らかで、オイリーで少しスパイシー、ジンジャーもちょっぴり現れ、フィニッシュもオイリーで長く、帰ってくるアロマも心地よいです。
よくオイリーと表現されますが、原料である未発芽の麦芽を使用する事からと言われています。
氷を入れても全く崩れることがなく輪郭がくっきりとしています。クワンではウイスキーの指定がない限り「オールド・ファッションド・カクテル」はレッドブレスト12年を使用しています。

アイルランドといえば音楽も欠かす事が出来ません。
1972年、後にアイルランドの英雄と呼ばれる事になる、Phil Lynott率いるThin Lizzyが古くから伝わる民謡『Whiskey In The Jar』をロックバンドで初めてカヴァー。
その後何組ものアーティストによって演奏されましたが、私はThin Lizzyの演奏が一番好きです。(全部を聞いたわけではありませんが)
歌詞に描かれている舞台は、ミドルトン蒸溜所があるコーク州の山間です。

『Whiskey In The Jar』Thin Lizzy
https://www.youtube.com/watch?v=wyQ-tScuzwM

ロックを聴き始めた13才の頃、友人が最初に買ったレコードがThin Lizzyの2枚組のラストライブで、放課後毎日の様に彼の家に行って聴いていました。
残念ながら『Whiskey In The Jar』はアルバムには入ってなく、この曲の事は何年も後になって知りました。
彼の音楽に初めて触れてから、約2年後の1986年にPhil Lynottはドラッグとアルコールの過剰摂取の為、36才で亡くなってしまいました。
高めの位置でベースギターを持って、彼ほど絵になる人はいないでしょう。


『レッドブレスト21年』

説明不要のうっとりするほどの素晴らしいアイリッシュウイスキーです。何もいりません。そのままでどうぞ。